またムソルグスキーの話ではないのですが、もう少しだけお待ち下さいね。
感動冷めやらぬうちに、コンサートレビュー。
先日、アレクセイ・リュビーモフの演奏会に行って来ました。
リュビーモフは、モスクワ音楽院で古楽と現代音楽を教えているエキスパートで、
モスクワに留学していた時から大好きなピアニストのうちの1人。
御歳72歳、まさか日本で聴けるとは思わなかったので、本当に浮き足立って出かけてきました。
1日目はリサイタル。
前半はC.Ph.E.バッハのファンタジー(fis-moll)、
ペルトのパルティータ第2番、アリーナのために、
シルヴェストロフのソナタ第2番、
ドビュッシーのプレリュードから雪の上の足跡とミンストレル、そして喜びの島。
後半は、モーツァルトのソナタK.311に、
当日曲目変更で、シューベルトの楽興の時から、op.90-2,3,4。
前半はリュビーモフの本当に好きな近現代ものを持ってきたという感じで、
個人的にはアルヴォ・ペルトの2曲が良かったです。
特に「アリーナのために」は、3分くらいの短い曲なのですが、
リュビーモフのピアノの鳴らし方が本当に良かった。
もっともっと聴いていたいと思わせられる、波長がじわじわと広がっていく、静けさ。
それから、ドビュッシーは、プレリュード全曲をモスクワで聴いていたので、
素晴らしいことは分かっていたのですが、やっぱり良かった。
なんというか、道化というよりはとてもスマートに相手を驚かせてにっこりするミンストレル。
鮮やかに、次から次へとくるくる変わるマジックを見せられているようでした。
そして喜びの島。これ、ドビュッシーがW不倫旅行をした頃に描かれた曲なので、
非常にエロティックな内容(だと個人的に思います)なのですが、
リュビーモフみたいなタイプがどう弾くのかなと密かに期待しておりましたら笑、
もうあと少しで溺れてしまいそうなエロティックぎりぎり、という感じでとても良かったです。
後半もとても良かったですが、個人的にはやっぱりペルトとドビュッシーがお気に入りでした。
そしてアンコール。モーツァルトのファンタジー(d-moll)のあと、
ショパンの舟歌を持ってきたのにちょっとびっくり。
実は、モスクワで彼のブラームスの1番のピアノコンチェルトを聴いたのですが、
この人はロマン派があんまり合わないんだなと思ったのです笑。
ロシア人にしては小柄で細身だし、もう少し重い音が良いなと。
個人的には、作曲家や音楽家が音楽で何をするかというと、情景描写と、感情描写とあって、
私は感情描写の曲の方が得意なタイプ。
音に感情がこもってしまうので、あまり情景描写は得意ではないです。
リュビーモフは、ドビュッシーのプレリュードが恐ろしく良かったので、
この人はロマン派的な感情描写よりも、情景描写の方が得意なタイプなんだろうなと思っていたのですが、
ショパンの舟歌は、情景描写と言えばそうなので、なんだか良かったです。
でもピアニストの性なのか、最後のコーダで音をずばずば当ててくるところになんだか感動してしまって笑。
この感動の仕方は違うよなーとか思いつつ、最後のアンコール。
最後の曲、スクリャービンのポエムop.32-1。これが、素晴らしかったです。
スクリャービンはop.30以降はそれまでの調性からだんだん外れていくのですが、
その「外れていくがゆえの美しさ」を余すところなく伝えたこの作品。
でもメロディにはまだちらっと調性が残っていて、聴きやすい素敵な曲。
この曲に対するアプローチとしては、ずぶずぶに溺れて演奏するか、溺れずに楽しむか、どちらかだと思うのですが、リュビーモフは溺れずに楽しむ方を選んでいて、またその感じがお洒落で…堪らなかったです。
リュビーモフのピアノの凄いところは、迷いがないところ。
当然のように弾きこなしていくのももちろんそうだし、
何より、音楽があるべき姿であるべき時にちゃんと表れているのが凄いところ。
でもその「あるべき」が、手の重みとか、そういう自然なものを根拠に考えられているので、
「作られた」感じはしないのです。
この、「作られた」感じがしない音楽が、私は好きで、
まるで今、音楽が生まれ出たかのように演奏したいと思っているのですが、
でも、私自身が「頭の良さそうな演奏」と言われることも多く、
実は自分では、そんなに考え込んで作り込んでる感じはないのですが、
それってつまり、おもしろくない演奏ってことなんじゃないかと、実は悩んでいたりしていたのです。
でも、頭の良い演奏と、自然な演奏は、同居することが可能なんだと、
リュビーモフの演奏を聴いていて思いました。
例えばモーツァルトとかハイドンなんかだと、リュビーモフはどんどん装飾音を足していく。
でもそれが、リュビーモフが意図して弾いている感じがしなかった。
まるでその場で思いついて入れてみたような雰囲気。
でもリュビーモフのことだから、「正しい」トリルの入れ方とか、装飾の足し方とか、
そう言うのが全部頭の中に入っていて、その引き出しから今日はこれーって出す感覚なのでは、と。
彼はちょうど私の年齢の倍なのですが、折り返してあと36年、
こんなに若々しく演奏し続けられるかなとか考えてしまいました。
2日目のコンチェルトの模様もお伝えしたかったのですが、長くなったのでこの辺で。
続きはまた、明日とか。